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名古屋地方裁判所 昭和43年(行ウ)12号 判決

原告 有限会社光楽食堂

被告 豊橋税務署長

代理人 松村利教 ほか五名

主文

一  被告が原告に対し昭和四二年一月三〇日付をもつてなした昭和三九年五月一日から昭和四〇年四月三〇日までの事業年度分法人税の所得金額を一四一万三、八五九円とした更正処分のうち同金額が一二九万六、五九九円を超える部分及び同事業年度にかかる過少申告加算税額を一万一、八〇〇円とした賦課決定処分のうち過少申告加算税額一万円を超える部分を取消す。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用はこれを一〇分し、その一を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

事実

第一申立

(原告)

一  被告が原告に対し昭和四二年一月三〇日付をもつてなした

昭和三八年五月一日から昭和三九年四月三〇日までの事業年度分法人税の所得金額を一七三万五、二九三円とした更正処分のうち六〇万三、〇〇八円を超える部分並びに過少申告加算税賦課決定処分を取消す。

二  被告が原告に対し昭和四二年一月三〇日付をもつてなした昭和三九年五月一日から昭和四〇年四月三〇日までの事業年度分法人税の所得金額を一四一万三、八五九円とした更正処分のうち六五万〇、八八三円を超える部分並びに過少申告加算税及び重加算税各賦課決定処分を取消す。

三  被告が原告に対し昭和四二年二月二日付をもつてなした昭和四〇年五月一日から昭和四一年四月三〇日までの事業年度分法人税の所得金額を八〇万四、三四七円とした更正処分のうち七〇万二、六〇〇円を超える部分並びに過少申告加算税賦課決定処分を取消す。

四  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決を求めた。

(被告)

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

との判決を求めた。

第二主張

(原告)

請求原因

一  原告は法人税につき別表一記載のとおり確定申告をしたところ、被告は、昭和三八年五月一日から昭和三九年四月三〇日までの事業年度(以下「係争第一年度」という。)及び昭和三九年五月一日から昭和四〇年四月三〇日までの事業年度(以下「係争第二年度」という。)については昭和四二年一月三〇日付をもつて、昭和四〇年五月一日から昭和四一年四月三〇日までの事業年度(以下「係争第三年度」という。)については同年二月二日付をもつて、別表二記載のとおり更正及び賦課決定の各処分をなした(以下これらを「本件処分」という。)。

二  しかしながら、本件処分のうち前記申立欄記載の部分はいずれも違法であるからその取消を求める。

(被告)

請求原因に対する認否

請求原因一の事実は認め、同二は争う。

本件処分の適法性

一  原告は、国道一号線沿いの愛知県豊橋市岩屋町字岩屋下一〇七番地において食堂(いわゆるドライブイン)を経営しているもので、昭和四一年四月三〇日現在資本金は八〇万円であり、右資本金の構成は一族で完全に占められているので法人税法にいう同族会社である。なお、原告はいわゆる青色申告法人ではない。

二  調査の経過―推計の必要性―

原告からその主張のように法人税の確定申告があつたので、被告において、右各申告書に基づき原告の備付ける帳簿書類を調査したところ、原告は、本件係争各年度において、売上金の一部を正規の帳簿に計上せず、その簿外売上金を裏預金に入金し、また、仕入金額についても、正規の帳簿に計上しないで右裏預金から支払つているなどの事実が判明し、原告の備付ける帳簿書類は不正確なことが確認された。そこで、更に、原告の仕入金額について調査したところ、原告が右裏預金から支払つていたいわゆる裏仕入は、係争第一年度において三三万円、係争第二年度において一四万円、係争第三年度において五二万七、八六七円あることが判明したが、原告は、右金額以外にもなお相当額の仕入洩れがあると申立てていた。そこで、その申立てにかかる仕入の有無について調査したところ、一部についてはその申立てどおりの事実が認められたが、その余については仕入の事実が認められず、結局、原告の正確な仕入金額を確認することができなかつた。

以上のように、原告の帳簿書類は不正確で、被告は原告の仕入金額の実額を計算することができなかつたので、やむを得ず、法人税法一三一条に基づき、同業者の差益率を適用して売上利益を推計し、これに基づいて原告の課税標準を算出した。

三  計算の内容―推計の合理性―

1 売上額

原告の申告額に前記簿外売上金(裏預金)を加算した金額である。

2 仕入金額及び総利益(荒利益)

原告の帳簿書類の内容が不正確のため仕入数額の実額計算が困難であつたので、被告は、売上額、仕入材料、従業員数等が原告と類似する同業者の差益率を調査算出し、これを前記売上額に乗じて総利益(荒利益)を算出した。

即ち、昭和四〇年一〇月現在の時点において、名古屋市東部から静岡県弁天島に至るまでの国道一号線沿いの、原告と同業者であるいわゆるドライブインは、六九店舗あり、そのうち確定申告書を提出したもの及び更正・決定の処分のあつたものは併せて五三件、そのうち青色申告者は一四件あつたので、そのうち従業員数二〇人以上及び収入金額五、〇〇〇万円を超えるものを除外して、原告と規模の類似する八件(別表三ないし五の「A」ないし「H」。なお、昭和三八年度については未開業の者があるので五件)を選定した。右のようにして選定された店舗のうち、豊橋市白河町内の店舗(「B」店)は、ドライブインではなく通常の食堂であるが、豊橋駅附近の道路沿いにあり、その取扱食品目も原告と大同小異で、顧客も通り客が殆んどである等の類似性を有する。更に、本件推計が「利益率」の推計であるならば、経営母体が異なればおのずから必要経費(一般管理費、販売費)も異なるから、「B」店を比準者とすることの合理性を再考すべき余地があろうが、本件は「差益率」を適用したのであるから、売上額、仕入原価がほぼ類似している以上、原告と「B」店との間において差益率そのものに格差を生ずるものとは考えられない。従つて、「B」店を比準者として選定したことには合理性がある。

また、被告は、本件処分にあたり、比準者「A」店の昭和三九年度の売上原価に商品仕入額九〇万〇、九三七円を算入しなかつたので、同年度の平均差益率は四三・一〇パーセントとなり、その端数を切り捨てた四三パーセントを適用したが、右商品仕入額を売上原価に算入すると、昭和三九年度の平均差益率は四二・二三パーセントとなり、この率は被告が適用した差益率四三パーセントを〇・七七パーセント下廻るものである。しかしながら、「A」店は、原告とは国道一号線をへだてて相対する西口町にあり、原告とは互いに筋向いに位置し、原告と従業員数、使用面積、売上額なども類似し、比率者のうち最も原告に近似している同業者であるから、「A」店の差益率のみをもつて原告の所得を推計しても合理性の是認せられ得るものである。この「A」店の昭和三九年度の差益率は四六・二二パーセントであるから、このことを勘案すれば、被告が適用した四三パーセントの差益率は相当である。

3 一般管理費及び営業外損益

一般管理費(営業にともなう通常の経費)及び営業外損益については、証拠書類の保存も不完全のため、被告は、やむなく原告が損益計算書に計上した数額をそのまま認容した。但し、営業外収益である部屋賃貸料及び預金利息については、これを加算し、更正にともなう事業税の増加分はこれを減算した。

四  右の方法により計算した各年度の損益は次のとおりである。

(一) 係争第一年度

(1) 売上額一、四六〇万九、二五一円(原告の損益計算書の売上額一、二八九万一、四三一円+簿外売上額一七一万七、八二〇円)

(2) 総利益(荒利益)六一三万五、八八五円(売上額一、四六〇万九二五一円×差益率〇・四二)

(3) 営業利益二二九万九、四二三円(総利益六一三万五、八八五円―一般管理費三八三万六、四六二円)

(4) 営業総利益二五一万四、五六五円(営業利益二二九万九、四二三円+営業外収益九万二、一一一円+部屋賃貸料一二万円+預金利息三、〇三一円)

(5) 純利益一七三万五、二九三円(営業総利益二五一万四、五六五円―営業外費用七七万〇、五四二円―支払利息の認定損八、七三〇円)

(二) 係争第二年度

(1) 売上額一、五二二万八、六三四円(原告の損益計算書の売上額一、二七三万一、七七九円+簿外売上額二四九万六、八五五円)

(2) 総利益(荒利益)六五四万八、三一二円(売上額一、五二二万八、六三四円×差益率〇・四三)

(3) 営業利益二三六万三、六六四円(総利益六五四万八、三一二円―一般管理費四一八万四、六四八円)

(4) 営業総利益二五二万〇、三七八円(営業利益二三六万三、六六四円+営業外収益二万六、三六五円+部屋賃貸料一二万円+預金利息一万〇、三四九円)

(5) 純利益一四一万三、八五九円(営業総利益二五二万〇、三七八円―営業外費用一〇一万九、二四九円―事業税の認定損八万七、二七〇円)

(三) 係争第三年度

(1) 売上額一、七六四万三、三五九円(原告の損益計算書の売上額一、六三九万九、四六九円+簿外売上額一二四万三、八九〇円)

(2) 総利益(荒利益)七五八万六、六四四円(売上額一、七六四万三、三五九円×差益率〇・四三)

(3) 営業利益二二六万三、二一九円(総利益七五八万六、六四四円―一般管理費五三二万三、四二五円)

(4) 営業総利益二三九万九、八七五円(営業利益二二六万三、二一九円+営業外収益七万六、二〇四円+部屋賃貸料五万四、七五〇円+預金利息五、七〇二円)

(5) 純利益八〇万四、三四七円(営業総利益二三九万九、八七五円―営業外費用一五二万三、七四八円―事業税の認定損七万一、七八〇円)

五  なお、被告が、本件処分において原告の所得金額を計算するにあたり推計をもつて計算した部分は、前述のとおり売上原価の算定のみであり、売上額及び必要経費等についてはいずれも実額をもつて計算したもので、売上原価の実額計算は不可能であるが、仮に、仕入金額を、原告が帳簿に計上している金額と、前記裏預金から支出している金額のうち原告の申立どおりに仕入の事実が認められる金額との合計額とみて、収支計算の方法により原告の所得を計算すれば、別表六のとおり本件処分の金額をいずれも上廻るのである。そして、前記裏預金から支出された仕入金額は原告が被告に提出したメモ(<証拠略>)に記載のとおりであるから、それ以外に仕入洩れがあるならば、その金額は前記裏預金に入金しなかつた収入金額(被告が収入金額に加算しなかつた収入金額)から支出されたことになる。従つて、右収支計算において、その仕入洩れ金額を売上額と仕入金額にそれぞれ加算すれば結果において算出される所得金額は同一となるので、いずれの場合においても本件処分の金額を上廻ることとなる。

六  重加算税

原告は、係争第二年度において売上金額の一部である二四九万六、八五五円をいわゆる裏預金に預入れて除外し、これに基づいて納税申告書を提出した。

そのため、係争第二年度における裏預金の純増差額は三万三、四五四円となつた。また、原告は、右裏預金から四〇万円を豊橋信用金庫二川支店に対する借入金の返済に充てたにもかかわらず、当期末現在の借入金残高として計上していた。重加算税額四万〇、二〇〇円=(法人税額四三万八、二七八円―重加算税対象外法人税額三〇万三、九二四円)×重加算税率〇・三〇

重加算税対象外法人税額={所得金額一四一万三、八五九円-(裏預金の純増差額三万三、四五四円+返済金四〇万円)}×法人税率〇・三一

七  過少申告加算税

係争第二年度過少申告加算税額一万一、八〇〇円=(重加算税対象外法人税額三〇万三、九二四円-申告法人税額六万七、三九〇円)×過少申告加算税率〇・〇五

係争第一年度分は二万二、〇五〇円、係争第三年度分は五、八〇〇円である。

八  従つて、前記所得金額に基づいてなされた本件処分はいずれも適法である。

(原告)

一  被告の主張に対する認否

被告の主張一、の事実は認める。同二、のうち、原告申立の一部については仕入の事実が認められず原告の仕入金額を正確に算定することができなかつたとの事実は否認し、その余は認める。同三、のうち、原告の帳簿書類が不正確なため仕入数額の実額計算が困難であつたとの事実は否認し、差益率算定の合理性は争う。同四、のうち、各売上額、各営業外収益、各部屋賃貸料、各預金利息、各営業外費用、支払利息の認定損、各事業税の認定損の各金額はいずれも認め、各差益率は争う。原告は、当初一般管理費額を認めたが、これは真実に反し、かつ、原告の錯誤に基づいたものであるから撤回し、右金額を否認する。同五、の主張は、正に、原告の所得の実額計算が可能であつたことを示すもので、被告は実額計算をすることができたのに、これをすることなく敢て推計課税をしたものであつて違法である。被告主張の仕入金額は否認する。仕入金額は後述のとおり他にもある。同六、のうち、原告が係争第二年度に売上金額のうち二四九万六、八五五円を裏預金に預入れて除外し、これに基づいて納税申告書を提出したこと、同年度の裏預金純増差額が三万三、四五四円となつたことは認める。同七、は争う。

二  差益率について

比準者「B」店は、単なる食堂であつて、交通、運輸関係者を顧客とする店(ドライブイン)ではない。一般に、単なる食堂の分が交通、運輸関係者を顧客とする店(ドライブイン)より差益率は高いのである。従つて、交通、運輸関係者を顧客とする原告に適用する差益率を定めるに「B」店を比準者とすることは合理性を欠くものである。そこで、「B」店を除外して、平均差益率を算定すれば、昭和三八年度は四〇・六四パーセント、昭和三九年度は四〇・七九パーセント、昭和四〇年度は四四・一五パーセントとなる。被告は、当該年度と前年度の差益率を比較して低い方の数値を適用しているのであるから、これに従い、本件各係争年度の差益率はいずれも四〇パーセントとすべきである。

被告がその主張五において認める仕入金額のほかにも、原告には簿外仕入がある。原告は、本件処分前の調査時点ではこの事実を全面的に申立てることができなかつたが、本件処分に対する不服申立ての段階においては右事実を全面的に申立てた。しかるに、被告はこれを無視している。すなわち、原告は、魚信、富士王豆腐店、鈴木食料品店、河合肉店、福井米穀店から簿外仕入れをしていたので、申告仕入金額を超過する仕入実額は、係争第一年度が一六一万〇、二三八円、係争第二年度が一九四万八、八九二円、係争第三年度が一八一万五、八一一円である。

三  一般管理費となるべき割増賃金について

原告は、従業員として、佐藤みよの、佐藤隆之、佐藤れい子、佐藤一好、佐藤美智子を使用し、その契約賃金は次のとおりであつた。

従業員名    期間(昭和年月日)     賃金(月額)

佐藤みよの 38・5・1から38・10・1まで   七、〇〇〇円

佐藤隆之  38・5・1から40・12・31まで 二万五、〇〇〇円

41・1・1から41・4・30まで 三万円

佐藤れい子 38・5・1から38・10・31まで 一万二、〇〇〇円

38・11・1から41・4・30まで 一万五、〇〇〇円

佐藤一好  38・5・1から41・4・30まで 二万五、〇〇〇円

佐藤美智子 38・5・1から38・10・31まで 一万二、〇〇〇円

38・11・1から41・4・30まで 一万六、〇〇〇円

ところが、右従業員らの勤務時間は、常時、佐藤隆之、佐藤一好については午前七時から午後七時までと、午後七時から午前七時までとの二週間交替であり、佐藤れい子、佐藤美智子については午後六時から午前八時まで、佐藤みよのについては午前八時から午後六時までで、同人らはいずれも月二日の休日をとつていたのみである。このように、同人らは深夜労働、時間外労働、休日労働をしているので、原告は、右従業員に対し労働基準法に基づく割増賃金を支払うべき義務がある。その合計金額は、係争第一年度が九六万二、八二六円、係争第二年度が一〇〇万一、二〇八円、係争第三年度が一〇一万七、八四〇円となる。右割増賃金額は一般管理費に算入されるべきものである。原告は、同族会社であつて、右の従業員ら一家が低賃金で働いている会社であり、その経理は家計との区別が判然とせず、従業員らは原告会社の金銭を生計的にも費消してきている。従つて、この費消された金銭は同人らに対する前記割増賃金債務の内払いと目すべきものである。このように、原告に利益として存在せず、実質上賃金として支払われた金銭に課税することは違法である。

(被告)

一般管理費について

前記自白の撤回には異議がある。

原告の従業員に対する契約賃金が原告主張のとおりであることは認める。従業員の勤務時間については不知。原告が従業員に対し割増賃金を支払うべき債務のあることは争う。

原告の営業形態はもともと深夜に及ぶ業態であるから、その主張する割増賃金は前記契約賃金に含まれていると解せられる。また、割増賃金を支払うべき債務があるという原告の主張は、異議申立、審査請求の段階においてはなされておらず、本訴訟に至つて突如として主張されたものであるが、本来かかる支払債務が存するならば、原告の当該事業年度の確定申告の決算書に当然記載されて然るべきものであるにかかわらず、何らの記載もない。このことは右割増賃金が当時全く考慮されていなかつたことにほかならない。従つて、右割増金債務が存在するとの原告の主張は容認されるべきではない。

第三証拠 <略>

理由

一  請求原因一の事実及び被告の主張(本件処分の適法性)一の事実、同二のうち原告申立の一部については仕入の事実が認められず、原告の仕入実額を算定することができなかつたとの点を除くその余の事実、同四のうち各売上額、各営業外収益、各部屋賃貸料、各預金利息、各営業外費用、支払利息の認定損、各事業税の認定損の各金額が被告主張のとおりであること、一般管理費のうち佐藤みよのら五名の従業員に対する契約賃金が原告主張のとおりであること、はいずれも当事者間に争いがない。

二  推計課税の必要性について

<証拠略>によれば、原告から本件係争年度の法人税につき各確定申告があつたので、昭和四一年一一月末頃被告はその職員を現地に臨ましめ、原告の日計表、帳簿、レジシート、納品書、保管現金等を調査したところ、日計表に入金状況が記入されていない部分があり、仕入の重複記入があり、収支金額が保管現金と一致しないなどの事業が判り、さらに、銀行からの借入金に対する利息額が帳簿上異常に少額であると思われたので取引銀行について調査した結果、本件係争年度の全期にわたつて原告は売上金の一部を帳簿に計上せず、これを当時の原告代表者佐藤宗一の個人名義及び仮名の小松錦一の名義で裏預金として預入れ、仕入金の一部も帳簿に計上せず右裏預金から支出している事実が判明したこと、そこで、被告は、原告の売上額は帳簿上の売上額に右裏預金への入金額を加算した金額であると認定したこと、ところが、原告は、右事実が被告に判明するや、帳簿に計上していない仕入すなわち簿外仕入が存在すると申立てそれを裏付ける証拠であるとして領収書約二〇枚(約二五〇万円相当)を被告に提出し、しかも、右領収書によるもの以外にも簿外仕入が存在すると申立てたので、被告がその裏付け調査をしたところ、その一部については原告申立どおりの事実が認められたが、その余については、領収書の内容が虚偽であつたり、原告の仕入先に売上帳簿が存在しないなどの理由から結局仕入金額を確認することができなかつたこと、このように、被告は原告の仕入実額を算定することができなかつたので、やむなく、原告と類似の同業者の差益率を調査算出し、これを原告の売上額に乗じた額をもつて原告の総利益(荒利益)とし、その他の収支項目については原告の申立をそのまま認容して本件処分を行なつたこと、以上の事実が認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。

右認定の事実によれば、被告は原告の所得を実額により算定することができなかつたのであるから、推計の方法によつて算定し、これに基づいて本件処分をなしたことは適法であるといわなければならない。原告は、被告が前記被告の主張「本件処分の適法性」五に示した計算は実額計算であり、本件において実額計算が可能であつた証左であると主張するが、被告が示した右計算は、仮に仕入金額を原告が帳簿に計上している金額と前記裏預金から支出している金額のうち原告の申立どおり仕入の事実が認められる金額との合計額とみた場合における計算を示したものに過ぎず、本件処分の段階においては、他に原告の申立のうち仕入の事実を確認することができなかつた部分があり、従つて原告の所得を確認することができなかつたことに変わりはないのであるから、右結論を左右するものではない。

三  推計の合理性について

<証拠略>と弁論の全趣旨によれば、<証拠略>は、いずれも青色申告納税者が所轄税務署長に提出し、それぞれの税務署長において納税者が真正に作成したものとして受理審査した確定申告書類のうち、納税者の氏名又は法人名、納税地や住所地の一部、仕入先、借入金の借入先、役員及び家族の状況、従業員の氏名、関係税理士の住所氏名等を貼り紙で秘匿し、納税者の氏名又は法人名として仮称「A」ないし「H」の符号を附したものであることが認められる。このように、右の書証は書類作成者の氏名等が秘匿されており、弁論においてもその点は示されていないけれども、これらの書証は、荒利益算定のための推計資料として本件訴訟に提出されたもので、前記のとおり、納税者によつて所轄税務署長に提出され、それぞれの税務署長において納税者が真正に作成したものとして受理審査した確定申告書類であることが認め得るのであるから、これにより形式的証拠能力を有するものと解するのが相当である。

このようにして形式的証拠能力を認める<証拠略>並びに弁論の全趣旨によれば、昭和四〇年一〇月現在名古屋市東部から静岡県弁天島に至る国道一号線沿いの、原告と同業者であるいわゆるドライブイン六九店舗のうち確定申告書を提出したもの及び更正・決定の処分のあつたものは併せて五三店舗あり、そのうち青色申告書は一四店舗あつたので、被告は、その中から原告と類似する別表三ないし五に記載の「A」ないし「H」の八店舗(昭和三八年度については五店舗)を比準者として選定したこと、右選定の基準としては、売上品目(主として米飯類)、売上額(五、〇〇〇万円以下)、従業員数(一九人以下)、使用建物面積、テーブル数などが原告と類似する店舗を選定したこと、被告が確定申告書等により調査した右比準者の収支状況(別表三ないし五)に基づき、その平均差益率(売上額から売上原価を控除した金額(売上差益)の売上額に対する割合の平均値)を算定すると、昭和三八年度(係争第一年度)は四二・七七パーセント、昭和三九年度(係争第二年度)は四二・二三パーセント、昭和四〇年度(係争第三年度)は四五・〇九パーセントとなること、が認められる。

原告は、比準者「B」店はドライブインではなく通常の食堂であり、通常の食堂の方が一般にドライブインより差益率が高いから、「B」店は比準者として不適当である、と主張するが、通常の食堂の方がドライブインより一般に差益率が高いと認むべき証拠はないし、<証拠略>によれば、「B」店は、通常の食堂ではあるが、前記選定基準に合致し、国道一号線近くの豊橋市内にあつて顧客も通り客が殆んどであること、他の比準者は豊橋市外にあるものが多いが、原告は豊橋市内に存在するところから、豊橋市内にある店舗の状況を知る必要から「B」店を選定したことが認められる。そうすれば、原告と「B」店とは類似性を認め得るから、被告が比準者の一人として「B」店を選定したことは妥当なものとして是認することができる。

以上認定の事実によれば、被告のなした比準者の選定、その収支状況の把握等は適正であり、結局、前記判示の本件係争各年分の平均差益率の算定は合理的なものということができる。

ところで、被告はその推計に当り、係争第一年度分及び係争第三年度の総利益を算出するについては四二パーセント及び四三パーセントの差益率をそれぞれ適用しているが、係争第二年度の分については前記四二・二三パーセントを上廻る四三パーセントの差益率を適用している。この点につき、被告は、比準者「A」店の差益率が四六・二二パーセントになつており、同店は原告と最も類似している同業者であるから、この率を下廻る四三パーセントの差益率は合理性がある、と主張するけれども、もともと前記四二・二三パーセントの昭和三九年度分の差益率は、前記認定のとおり、「A」店を含めた八店の類似同業者の平均値を求めたものであり、その故に合理性が是認し得るものであるから、その中から高率のもの一店だけを抽出して、被告の適用率四三パーセントの合理性を主張することは平均値の意義を没却するものであつて採用し難い。もつとも、被告は右「A」店が原告と最も類似した同業者であるから、この「A」店の差益率のみでも合理性があると主張しており、<証拠略>によれば、「A」店は、売上額、従業員数が原告と類似しており、その店舗が国道一号線を挾んで原告とは筋向いに位置することが認められるけれども、この程度の事実関係をもつて被告の右主張を肯認することはできない。

被告適用の差益率は、昭和三八年度及び同四〇年度の分についてはその合理性を認め得るが、昭和三九年度の分については、四二・二三パーセントを超える部分は合理性を欠くものというべきである。

なお、原告は、原告の仕入金額につき、被告が認容する仕入金額以外にも仕入の事実が存在すると主張するが、その事実及びその金額を確定するに足る証拠はない。

四  一般管理費について

原告は本件訴訟において、当初、被告主張の一般管理費を認めており、後にその金額を否認するに至つた。これは自白の撤回に該当するものであり、この撤回に被告は異議を述べるので、右撤回の許否について判断する。

本件係争年度における佐藤みよのら五名の従業員に対する契約賃金は原告の主張「三、一般管理費となるべき割増賃金について」に記載の金額の限度においては当事者間に争いがないところ(右金額は一般管理費に算入されている。)、原告はさらに割増賃金債務が存在すると主張するのであるが、<証拠略>及び弁論の全趣旨によれば、原告会社は同族会社で、佐藤みよのら五名の従業員はいずれも当時の原告会社の代表者佐藤宗一の家族であり、原告会社には勤務時間の定めはなく、原告の営業態様からして右従業員らは深夜労働、休日労働にわたることもあることを承知のうえで就労し、これに対する賃金は全労働時間を通じて一括した一定の金額(前記契約賃金)が支給され、賃金の基礎となる労働として基本労働と時間外労働、深夜労働、休日労働との区別は全くされていなかつたこと、従つて、原告は右賃金のほかには時間外、深夜、休日労働による割増賃金を全く支給していなかつたこと、そして、原告は、本件係争年度にかかる確定申告においても割増賃金を計上せず、本件処分に対する不服申立においても割増賃金に関する主張をしたことはなかつたのに、本訴訟においてはじめて右主張をするに至つたこと、が認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

右認定の事実によれば、原告が右従業員らに支払つた前記契約賃金には原告の主張する割増賃金をも包含していたものと認めるのが相当である。

従つて、原告に割増賃金債務は存在していなかつたのであるから、原告が当初、これが存在していなかつたものとして一般管理費を被告主張のとおりに認めた自白は、真実に合致するものであり、撤回は許されない。

五  以上のとおりで、本件係争年度における原告の損益を計算すると、その純利益(所得金額)は、係争第一年度が一七三万五、二九三円、係争第二年度が一二九万六、五九九円、係争第三年度が八〇万四、三四七円となる。その法人税額は、係争第一年度が五七万二、六一〇円、係争第二年度が四〇万一、九一〇円、係争第三年度が二四万九、三三〇円となる。そうすれば、本件法人税の更正処分は係争第一年度及び係争第三年度の分は適法であるけれども、係争第二年度の分は所得金額一二九万六、五九九円の限度において適法たるにとどまり、この金額を超える部分は違法というべきである。

六  重加算税及び過少申告加算税について

原告が係争第二年度において売上金額の一部である二四九万六、八五五円を裏預金に預入れて除外し、これに基づいて納税申告書を提出したこと、同年度における裏預金の純増差額が三万三、四五四円となつたことは当事者間に争いがない。そして、<証拠略>によれば、原告は右裏預金から昭和四九年六月三日に一〇万円、同年八月三日に一〇万円、同月二〇日に二〇万円の合計四〇万円を豊橋信用金庫二川支店に対する借入金の返済に充てたにもかかわらず、係争第二年度末現在の借入金残高として計上していたことが認められる。

これらの事実によれば、右の裏預金の純増差額及び返済金額は、課税標準時の計算の基礎となるべき事実を隠ぺい、仮装し、これに基づいて納税申告書を提出したものとして、重加算税の対象所得金額とすべきものである。従つて、

重加算税対象外所得金額八六万三、一〇〇円(一〇〇円未満切捨)

重加算税対象外法人税額二六万七、五六一円

重加算税対象法人税額一三万四、〇〇〇円(一、〇〇〇円未満切捨)

重加算税額 四万〇、二〇〇円

となる。

係争第二年度の過少申告加算税については、

重加算税対象外法人税額 二六万七、五六一円

申告法人税額 六万七、三九〇円

過少申告加算税対象法人税額二〇万円(一、〇〇〇円未満切捨)

過少申告加算税額 一万円

となる。

係争第一年度の過少申告加算税額は二万二、〇五〇円、係争第三年度の同税額は五、八〇〇円となる。

そうすれば、本件重加算税賦課決定処分及び係争第一年度、係争第三年度の過少申告加算税賦課決定処分は適法であるけれども、係争第二年度の過少申告加算税賦課決定処分は同加算税額一万円の限度において適法たるにとどまり、この金額を超える部分は違法というべきである。

七  以上のとおり、原告の本訴請求は、一部理由があるからその限度においてこれを認容し、その余の部分は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担については民事訴訟法九二条を適用して、主文のとおり判決した。

(裁判官 藤井俊彦 濱崎浩一 山川悦男)

(別表一)

確定申告

年度区分

所得金額

法人税額

申告年月日

係争第一年度

三九八、三八七円

一三一、四三〇円

昭和三九年六月三〇日

係争第二年度

二一七、四二九円

六七、三九〇円

昭和四〇年六月三〇日

係争第三年度

四二七、七一〇円

一三二、五八〇円

昭和四一年六月三〇日

(別表二)

更正及び決定

年度区分

所得金額

法人税額

加算税

係争第一年度

一、七三五、二九三円

五七二、六一〇円

二二、〇五〇円(過少申告)

係争第二年度

一、四一三、八五九円

四三八、二七〇円

一一、八〇〇円(過少申告)

四〇、二〇〇円(重加算)

係争第三年度

八〇四、三四七円

二四九、三三〇円

五、八〇〇円(過少申告)

(別表三)

昭和三八年度分

名称

所在地

従業員

使用面積

年度又は事業年度

売上金額

売上原価

売上差益

差益率

A

豊橋市西口町

一〇

平方米

三一五・一五

三八・五・一

三九・四・三〇

千円

一二、二六一

千円

六、四九四

千円

五、七六七

四七・〇四

B

豊橋市白河町

三八年

七、六〇六

三、七〇六

三、九〇〇

五一・二七

C

浜名郡新居町

一二

三八・五・一

三九・四・三〇

一〇、二四七

六、八七九

三、三六八

三二・八六

D

安城市尾崎町

一七

一九八・〇〇

三八・四・三

三九・二・二九

一九、二二七

一一、八五二

七、三七五

三八・三六

E

碧海郡知立町

一一

三八年

一三、〇八〇

七、二八四

五、七九六

四四・三一

平均

四二・七七

(別表四)

昭和三九年度分

名称

所在地

従業員

使用面積

年度又は事業年度

売上金額

売上原価

売上差益

差益率

A

豊橋市西口町

一〇

平方米

三一五・一五

三九・五・一

四〇・四・三〇

千円

一三、〇一六

千円

六、九九九

千円

六、〇一七

四六・二二

B

豊橋市白河町

三九年

一〇、〇三三

四、七八二

五、二五一

五二・三四

C

浜名郡新居町

一二

三九・五・一

四〇・四・三〇

一二、八一三

七、三三八

五、四七五

四二・七三

D

安城市尾崎町

一八

一九八・〇〇

三九・三・一

四〇・二・六

二九、三四八

一八、四六一

一〇、八八七

三七・〇九

E

碧海郡知立町

一〇

三九年

一五、八五六

八、七七四

七、〇八二

四四・六六

F

豊橋市飯村町

一八〇・〇〇

三九年

九、七〇五

五、六六三

四、〇四二

四一・六四

G

蒲郡市神明町

三九・四・一

三九・一二・三一

三四、七二〇

二〇、四〇一

一四、三一九

四一・二四

H

名古屋市緑区安城市今村町

一二

三三〇・〇〇

三九・六・二九

四〇・四・三〇

一一、五二三

七、八三九

三、六八四

三一・九七

平均

四二・二三

(別表五)

昭和四〇年度分

名称

所在地

従業員

使用面積

年度又は事業年度

売上金額

売上原価

売上差益

差益率

A

豊橋市西口町

一一

平方米

三一五・一五

四〇・五・一

四一・四・三〇

千円

一三、五〇〇

千円

六、九一六

千円

六、五八四

四八・七七

B

豊橋市白河町

四〇年

一一、七八九

五、六九二

六、〇九七

五一・七一

C

浜名郡新居町

一二

四〇・五・一

四一・四・三〇

一五、七〇五

八、三六九

七、三三六

四六・七一

D

安城市尾崎町

一七

三三〇・〇〇

四〇・三・一

四一・二・二八

三二、四三七

一八、七七七

一三、六六〇

四二・一一

E

碧海郡知立町

一一

四〇年

一七、二六九

九、三〇五

七、九六四

四六・一一

F

豊橋市飯村町

一八〇・〇〇

四〇年

八、六八三

四、四六七

四、二一六

四八・五五

G

蒲郡市神明町

四〇・一・一

四〇・一二・三一

三五、八八一

二〇、九五〇

一四、九三一

四一・六一

H

名古屋市緑区安城市今村町

一二

三三〇・〇〇

四〇・五・一

四一・四・三〇

一三、〇二六

八、四四二

四、五八四

三五・一九

平均

四五・〇九

(別表六)

実額による所得金額の計算

(単位・円)

区分

係争第1年度

係争第2年度

係争第3年度

売上額〈1〉

14,609,251円

15,228,634円

17,643,359円

売上原価

(原告計上期首たな卸)

(原告計上仕入)

(認容した海外仕入)

(原告計上期末たな卸)

計〈2〉

97,721

8,004,920

330,000

124,490

8,308,151

124,490

7,312,169

140,000

99,841

7,476,818

99,841

9,171,580

527,867

119,407

9,679,881

総利益〈1〉-〈2〉〈3〉

6,301,100

7,751,816

7,963,478

一般管理費(原告計上)〈4〉

3,836,462

4,184,648

5,323,425

営業利益(〈3〉-〈4〉)〈5〉

2,464,638

3,567,168

2,640,053

営業外収益

(原告計上)

(計上もれ賃貸料受取利息)

計〈6〉

92,111

123,031

215,142

26,365

130,349

156,714

76,204

60,452

136,656

営業外損失

(原告計上)

(支払利息もれ)

(事業税認定損)

計〈7〉

770,542

8,730

779,272

1,019,249

102,150

1,121,399

1,523,748

176,180

1,699,928

所得金額(〈5〉+〈6〉-〈7〉)

1,900,508

2,602,483

1,076,781

原処分所得金額

1,735,293

1,413,859

804,347

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